コラム -column- 新しいお葬式のかたちについて、
お坊さんに質問してみた

海洋散骨の増加について

——今日はよろしくおねがいします。

はい、よろしくお願いします。

——先生は真宗大谷派(東本願寺)寺院の副住職をされていますが、『海洋散骨』はご存知ですか?

もちろんです。最近では家墓があっても納骨はしないという人もおられます。仏壇もお墓も、高齢の相続者さんが継承できずに始末するケースは増えてきているように思いますね。

——『墓じまい』という言葉も最近聞くようになりました。

増えていますね。ご高齢になってお墓の管理が難しい方は少なくありません。

散骨って罰当たりなのでは、と感じる日本人らしい心理

——散骨を検討する際、バチが当たったり悪いようになるのではと不安になる方もいます。

言ってしまえば、仏様は基本的には衆生(人間)を救うお立場です。仏罰があたるという心配はありません。

——最近では海洋散骨だけでなく供養もいろいろありますが、どう思われますか?

日本は『家』を中心に宗教観を養い、継承してきた歴史があります。最近になって『宗教離れ』や『墓じまい』が話題になっていますが、これは時代の変遷によって『家族』の価値観が変化したことも大きいだろうと思います。現代の最小単位は『家』ではなく『個』なんだとか。これからの時代、儀式・宗教のあり方はますます変わっていくと思いますよ。

——変わっていくと、正直お寺は大変なのでは?

それは大変ですよ。ですが、仏教界も変容が求められる時期が来ているんでしょう。生き方の多様性も認められる社会で、たとえばLGBTのカップルなら子供がいなくとも互いを思う気持ちで弔おうとされるでしょうし、それは事実婚の夫婦にしても同様です。戸籍だけが「家族」を象徴するものではなくなっていく、そういう時代に応じた供養を考えることは必然だろうと、私は思いますね。

——宗教性よりも弔いに対する想いを尊重した供養になっていく、ということでしょうか?

そうとも言えますね。今後の宗教は社会的な価値観や慣例に縛られず、弔う側の精神性やピュアな憶念が軸になってくるのでは。また、海や山という自然はおおよそ無くならないでしょうから、そういう意味でも自然葬というのはある意味、回帰というか原始的な帰着点ではないでしょうかね。

新しいお葬式のかたちについて、お坊さんに質問してみたイメージ

現代のお墓について〜散骨か、収骨か〜

——お墓やお仏壇での供養は時代遅れなんでしょうか?

時代遅れ、とはもちろん思いませんし『お墓回帰』のようなリバウンドが今後無いとも言えません。安易なムーブメントで墓仕舞いが加速することには危機感もあります。しかしながら少子高齢化でお墓の継承が難しいのも事実でしょう。グリーフケアの観点から見た場合、お墓よりも身近な手元供養やモーニングジュエリーを心のケアに実用的に用いているケースもあります。どちらにせよ、何らかの拠り所が必要な方はおられるわけですから、散骨などを考える際には、そういった部分もしっかり想像されるのをお勧めしますね。

——お坊さんとして、納骨か散骨かと問われたらなんと答えられますか?

僧侶という立場からは「基本的には集団収骨を勧めますが散骨もありだと思う」と言うのが正直なところです。しかしですね、そもそも骨壺に入れて墓に納める方法は歴史から見て新しいんですよ。土葬も含めて、自然に帰るほうが“普遍”ですからね。私は、散骨が異端な方法とはまったく思いませんよ。

——なるほど、普遍的な方法だと。

それに供養というのは時代とセットで考えるべきで、戦国時代でも戦争中でも、時代によってはお墓がない時代もあったでしょう。亡くなった方の尊厳を保つ葬礼が大切なのであって、その形式に弔いの是非があるのではないんです。セレモニーの流れのひとつとして現代は納骨がポピュラーなだけで、これは時代と共に変わってもおかしくないんですよ。

——最後に、これからのお葬式のあり方についてお考えがあればお聞かせください。

今までの方法を踏襲してはいけないのではなくて、供養の尊厳を大切にして、弔う方にとっても無理のない方法を模索していただけたらと思います。供養というのは故人と共有する想いの世界。お金をかけたから良いのでもないが、簡素だから清貧で良いのでもありません。ある意味、家長制の時代に当然とされた家の宗教儀式は、それを縁にして親戚縁者が集う尊さもありますよね。かと思えば、現代病として家族という病を抱えている人からすれば、散骨をすることで区切りがつく場合もあるでしょう。それがその人の救いになることもあるわけです。儀式がどう、方法論がどうではなく、ご自身を含めて弔いの想いを今一度じっくりと考える時が来ているのかもしれませんね。

——今日はありがとうございました。

はい、ありがとうございました。

円受寺 副住職 松本曜一氏

障害者福祉事業、外来専門の医院経営を経て有馬温泉病院の役員を勤める。その後、真宗大谷派にて僧籍を取得。現在、副住職の傍ら、一般社団法人ビハーラ21福祉事業協会にて理事を勤める。

新しいお葬式のかたちについて、お坊さんに質問してみたイメージ②